【流 通】横浜市立大学 日本の「へき地」と都市部の医療格差を網羅的に調査

横浜市立大学の研究グループ(*1)は、日本の「へき地(*2)」と都市部における医療の質の格差について、これまでに発表された論文や報告書を網羅的に収集し、現状と課題を整理した。

日本には約6,800の島々があり、人口の約9%が過疎地域に居住している。医師がいない「無医地区」もあり、地域によって医療へのアクセスに大きな差が存在する。こうした格差を是正するためには、まず現状を正確に把握することが必要となる。今回の研究は、医療の質を評価するフレームワーク「Donabedian モデル」(医療の質を構造・過程・結果の3つの要素に分けて分析するモデル)を用いて、「へき地」と都市部で医療の質を比較しているこれまでの日本の研究を分析し現状と課題を明らかにすることを目的として実施された。

スコーピングレビュー(*3)を行い、2006年以降に発表された論文5,020件から、「へき地」と都市部の医療を比較している15件の研究を選定し、医療の「構造(例:人口当たりの医師数など)」、「過程(例:心筋梗塞発症から治療開始までの時間や心不全に対するガイドラインに沿った治療実施率など)」、「結果(例:死亡率など)」の3つに分類した。

その結果、15件中9件の研究においては「へき地」は都市部に比較して医療の質が劣るという結果だったが、3件の研究では「へき地」の方が医師の診療の幅が広いなど質が高い面も見られた。また多くの研究が病院を対象とし、診療所などプライマリ・ケア(*4)を担う施設に関する研究は少なく、特に「結果」を調査したものはなかった。さらに「へき地」や都市部の指標や基準は研究ごとに異なり、比較が難しいという課題も判明した。

「へき地」と都市部のプライマリ・ケアにおける医療の質の違いに関する研究は少なく、「結果」を評価した研究は存在しなかった。また「へき地」や都市部の指標として広く用いられているものがない、という課題も明らかになった。今後は、「へき地」と都市部の医療の質を一貫した指標で比較できるようにすること、その上でプライマリ・ケアに焦点を当てた研究を増やすことが重要となる。

*1 横浜市立大学大学院データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻の金子 惇准教授らの研究グループ。この研究はカナダWestern大学のMaria Mathews教授や島根県雲南市立病院の太田龍一医師との共同研究である

*2 へき地

「へき地」という言葉は医療資源の乏しい郡部を指す言葉として行政文書でも用いられており、英語の rural に対応する言葉として本研究では「へき地」「へき地度」という言葉を用いている。ただ「へき地」も”rural”もネガティブなニュアンスを含んで用いられる場合もあるものの、他に適切な用語が無いため使用されているという側面もあり、その点を鑑みて、ここでは「 」付きの「へき地」「へき地度」という表現を用いている

*3 スコーピングレビュー

ある研究分野の全体像や既存のエビデンスの中でどの部分の研究が不足しているかを明らかにするために、再現性のある方法で文献レビューを行う手法

*4 プライマリ・ケア

身近にあって、何でも相談にのってくれる総合的な医療。病気に至る前の状態での健康相談や予防医療など、幅広い領域にまたがる


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