【流 通】慶應義塾大学 コロナ禍で所得に連動したウェルビーイング格差拡大を解明
慶應義塾大学商学部山本勲教授と経済学部石井加代子特任准教授は、全国の家計を追跡したパネルデータを解析し、コロナ禍を経て、日本の所得格差は拡大しなかった一方で、生活満足度や心身の健康状態などで測ったウェルビーイングの格差が所得格差に連動した形で拡大していた実態を明らかにした。給付金の支給などで金銭的格差は抑えられたものの、高所得層では在宅勤務が普及し、その利点を享受した結果、非金銭的な側面でのウェルビーイングの差が社会全体で拡大・定着した。この解析結果を受け、今回の研究では、所得に加えウェルビーイングなど非金銭的側面も含めて格差問題を捉え、政策的な対応を検討する必要性を提言している。
今回の研究は山本勲教授らの研究グループによる科学研究費補助金・特別推進研究プロジェクト「コロナ危機以降の多様な格差の構造と変容:家計パネルデータを活用した経済学研究」(2022〜26年度)の一環として実施された。この研究プロジェクトでは、コロナ危機によって幅広い側面での格差がどのように顕現化し、中長期的にどのように変容しうるかについて、「日本家計パネル調査(JHPS)」(慶應義塾大学経済学部附属経済研究所パネルデータ設計・解析センター)から国際比較可能な家計パネルデータを共通インフラとして構築し、幅広い経済学分野からの解明を図る研究を進めている。
COVID-19のパンデミックは、経済活動を停滞させ、一部の労働者には就業を断念せざるを得ない状況をもたらしたが、さまざまな経済支援策により、少なくともコロナ禍初期においては、所得格差の拡大を抑制できたと多くの研究が示している。しかしパンデミックの影響の規模を考えると、その余波は中長期的に続く可能性が指摘されている。特に労働環境では、コロナ禍を契機に、高所得層で在宅勤務が普及し、柔軟な働き方が加速した一方で、低所得層では柔軟な働き方の浸透は遅れ、感染リスクや雇用不安が顕著となった。
こうした労働環境の変化は中長期的に影響を及ぼし、金銭的な格差だけでなく、生活満足度や心身の健康といったウェルビーイングの側面でも新たな格差を生み出し、社会全体の不平等を複雑化させる可能性がある。
パンデミックが所得格差やウェルビーイングに与えた影響を分析した研究の多くが、パンデミック初期における影響に着目しており、中長期的な格差の動向については明らかになっていない。山本勲教授と石井特任准教授の研究では、日本全国の成人男女をコロナ禍前から追跡したパネルデータを用いて、コロナ禍前後での所得やウェルビーイングの分布の変化と、働き方の変化との関係を検証した。コロナ禍を経て、所得格差とウェルビーイング格差がどのように変化し、両者がどのように関連しているかを世界で初めて明らかにする試みといえる。
この研究は、所得格差だけでなく、ウェルビーイングにおける格差に焦点を当て、コロナ禍を経て、生活満足度や心身の健康状態などが所得に応じて二極化している実態を明らかにしました。特に高所得層では在宅勤務が定着し、その利点を享受することでウェルビーイングが向上した一方、これが社会全体のウェルビーイング格差拡大につながったことを指摘している。こうした知見に基づいて、所得不平等に直接的に介入するだけでなく、在宅勤務の実施可能性の向上や新しいデジタル技術に対応するためのリスキリング機会の提供が、今後の社会政策に重要だと主張している。
今後は、研究で明らかになった所得格差に連動したウェルビーイング格差の拡大や、その原因となった高所得層に偏った在宅勤務の活用が、日本以外の他の先進国でも同様にコロナ禍を契機に生じたのかを明らかにすることが重要といえる。
・製品名および会社名などは、各社の商標または登録商標です
0コメント