【流 通】NEC 鉄道の輸送障害時に最適復旧ダイヤを作成するシステム構築

NECは事故や自然災害などによる鉄道の輸送障害時における最適復旧ダイヤを短時間で作成するAIを活用したプロトタイプシステムを構築した。今後はさらなる性能向上に加えて、運行管理の現場に適したユーザインタフェースの開発を開始し、実用性の検証を進める。

昨今、鉄道会社間の相互直通運転の増加や複々線化などにより、鉄道の運行形態の複雑さが増している。また線路内立ち入りや動物との衝突などに加えて、予測できない自然災害による遅延・運行可能区間の制限など輸送障害の件数は増加している(※1)。

このような中、行先、運行種別の変更や運休に加えて、運行順序の変更など、複雑で多岐にわたるパターンがある鉄道の運行ダイヤの作成はこれまで係員の経験に依存してきた。しかしベテラン世代の退職や若手社員の採用難に伴い、効率的な運行の維持とダイヤ作成業務の省力化が求められている。

これまで一般的には混合整数計画法(※2)などを活用した組合せ最適化AIによるダイヤ作成が試みられてきたが、大規模かつ複雑な鉄道路線での利用は、膨大な計算時間が必要であり、迅速な復旧が求められる輸送障害時の運用はできなかった。

今回開発した輸送障害時の復旧ダイヤ作成システムは、現実的な時間で大規模最適化問題の解が得られる強化学習(※3)を搭載したAIである「大規模システム最適化技術」を活用しており、短時間で最適な復旧ダイヤ作成を実現する。

NECが独自に開発した鉄道運行をデジタル空間に再現する鉄道運行用デジタルツインを用いて、作成したダイヤの実用性を検証する。また実際の輸送障害のケースに加えて、未経験のケースをデジタルツイン上で発生させることで、AIは試行錯誤しながらその対処方法を学習する。従来の組合せ最適化AIでは、輸送障害時に膨大な計算により最適解を探索していたが、このように事前に対処方法を学習することで、輸送障害時に数分で効率的なダイヤを作成することができる。さらに輸送障害時には一旦全列車を停止させるなどの鉄道事業者が規定するルールを順守するAIを協調的に動作させることで、大規模かつ複雑な鉄道路線でも守るべきルールと効率性とを両立したダイヤ作成を行うことができる。これにより、これまで困難とされていた鉄道路線における利用が可能となり、輸送障害時の復旧時間の短縮に寄与する。

今回、小田急電鉄株式会社の協力を得て小田急小田原線を対象に鉄道運行用デジタルツインで技術検証を行い、過去の輸送障害事例のうち任意のケースにおいて、列車の駅間停車を回避する運転整理ダイヤの出力を可能とした。

NECでは、今回のような復旧ダイヤの作成だけではなく、今後は通常ダイヤ作成や乗務員計画への拡張などを通して、鉄道DXの一環として鉄道運行におけるAIソリューションの展開可能性について検討を進める。また航空や物流などさまざまな業界での応用も検討していく。


※1 出典:国土交通省 鉄道局『鉄軌道輸送の安全に関わる情報(令和3年度)』


※2 混合整数計画法

事前に最適化対象の業務を数式(不等式)で定義し、最適化が必要な状況発生時に定義した数式を使って最適な解を探索する手法の一つ。対象の業務が大規模、複雑になるほど多数の数式が必要となり、それに伴い解の探索時間が急激に増大する


※3 強化学習

シミュレータ等、現実の挙動を再現できるソフトウェア上で、様々な行動を試行錯誤しながら最適な行動を学習するアプローチ


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