【流 通】哲学と脳科学を用い、地域が受け入れる地域資源利用設計のあり方を明らかに
東北大学流体科学研究所の鈴木杏奈准教授らの研究グループは、哲学者C.S.パースの探究の理論(※1)を用いて地域社会における価値観の違いを整理し、意思決定に与える影響を明らかにした。
地域の土地・資源開発では、技術を優先する設計者が自分たちの考えが正しいと思い込み、利用者や周辺住民などの価値観を受け入れずに作業を進められる傾向がある。例えば火山国の日本に豊富な資源の地熱や温泉の利用でそのような場面が多く見受けられる。その結果、発電事業者や温泉経営者、地域住民の間で意見が対立することが少なくない。こうした課題の背景には、設計には設計者自身の価値観が強く反映されるが、そのような影響が十分に意識されてこなかったことが挙げられる。
東北大学流体科学研究所の鈴木杏奈准教授は、武蔵野美術大学造形学部の山口純非常勤講師、東京大学大学院工学系研究科の柳澤秀吉准教授と共同で、哲学者C.S.パースの探究の理論を用いて地熱・温泉資源の活用における関係者の価値観の違いを整理し、それが設計に与える影響を明らかにした。
また脳の情報処理の仕組みを応用した数理モデル「自由エネルギー原理」(※2)を活用し、異なる価値観を持つ関係者がどのように設計を評価し、意思決定を行うのかを理論的に考察した。そして異なる価値観を持つ関係者が設計を納得し、受け入れやすくなるような環境のあり方について議論し、合意形成を促進するための場づくりの方向性を提示した。この研究は、資源工学・デザイン・計算論的神経科学という異なる分野の専門家が連携する学際的なアプローチにより進められた。
今後、この知見を活かし、地熱開発や地域共創(※3)の場面における設計プロセスの改善に貢献することが期待される。
※1 C.S.パースの探究の理論
人は「驚き」や「疑問」から探究を始め、仮説を立て(アブダクション)、論理的に推論し(演繹)、経験によって検証する(帰納)ことで知識を発展させるプロセスを示した理論
※2 自由エネルギー原理
脳が予測と現実のズレ(予測誤差)を最小化しながら環境に適応する仕組みを説明する理論で、意思決定や学習のモデルとして応用される
※3 地域共創
多様な立場の人々が協力し、地域資源や課題に対して新しい価値や解決策を共に創り出すプロセス
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